徽章羽根社会保険労務士事務所

     HANE The Labor & Social Security Attorney's
青空

この記事は、2018-07-03に更新されたものです。

個人事業主(請負・委託)の方

1. 「個人事業主」とは

「個人事業主」とは、「個人で事業を行う」方のことで、個人商店の店主のようなものです。誰の命令も受けず、自分がどういう仕事をするかを自分で決めることができます。部下を雇ったり、部下に指示したりするのも自分の裁量で自由に決めることができます。疲れたら自由に休むこともできるし、嫌な仕事はしないこともできます。

逆に、「労働者」は、「使用者(雇い主)」の業務命令に従わなければなりません。嫌な仕事でも業務命令に逆らうことはできません。なぜならそれが労働者の義務だからです。使用者(雇い主)の指揮命令に従うこと(労働力を提供すること)が労働者の義務であり、その義務を果たす代わりに、使用者(雇い主)は労働者に対して約束した賃金を支払う義務が生じます。

2. 「個人事業主」は、「労働法」(労働基準法など)の適用外

「個人事業主(=事業者)」は「労働者」ではないので、労働者を対象にした労働基準法などの労働法令による保護を受けられません。

たとえば労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険には加入できません。

※ 国民健康保険・国民年金には加入できます。労災保険には特別加入できる場合があります。雇用保険には加入できません。

採用された時に交わす契約が、「雇用(労働)契約」ではなく、「業務請負契約」や「業務委託契約」などとなっている場合は、労働者と事業者との契約ではなく、事業者と事業者の間で交わす契約であることを表しており、注意が必要です。

3. 「個人事業主」か「労働者」か

「個人事業主」にはメリットもあります。仕事を選ぶ自由があり、嫌な仕事は引き受けないこともできます。自分でするのが大変なら、部下を雇ったり部下に仕事を命じることもできます。また、疲れたりした時など、いつでも自由に仕事を休むことができます。「個人事業主」として仕事をするか、「労働者」として雇われて命じられた仕事をするのか、どちらの働き方を選ぶかは個人の自由です。

しかし、一度「労働者」として働き始めたら、雇用(労働)契約に定められた期間(期間の定めが無い場合は、途中で解約しない限り定年まで)使用者(雇い主)から命じられた通りに働き続けることになります。

「個人事業主」のデメリットは、自分で仕事を探さなければならない、自分で経理をしなければならない、自分で確定申告しなければならない、自分で社会保険に加入しなければならない、などです。とりわけ、自分で仕事を見つけられなければ収入がゼロになってしまいます。

名目上は「個人事業主」として仕事をしていても、実質的に「労働者」である場合があります。この一見、どちらでもよさそうな「個人事業主」か「労働者」かの区別が大変重要になる場面があります。

1つは、仕事をしていてケガなど災害に遭ったとき───命じられたとおりに仕事をしなければならず、部下を雇うことも許されず(命じられた仕事を自分自身でこなさなければならず)、そしてケガや病気になってしまった時に「労災だ!」「いや、個人事業主に労災は無い!」などと争いになることがあります。

もう1つは、「契約終了(更新なし)」か「解雇」かという問題です。景気が悪くなると、企業は経費を減らそうとします。そんな時に真っ先に手をつけやすいのが、人件費です。とりわけ、自社雇用の労働者よりも、「個人事業主」との契約の方が打ち切りやすいのです。「労働者」の場合は、解雇には高いハードルがあります。

「個人事業主」と「労働者」のどちらに当たるかは、契約の名称ではなく、実態で決まります。「労働者性の判断基準」というものもありますが、いくつかの要素を総合的に判断するというもので基準があまりはっきりせず、いくつもの裁判で争われています。

「労働者性」の判断基準

  • 1.「使用従属性」に関する判断基準
    • (1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
      • イ 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
      • ロ 業務遂行上の指揮監督の有無
        • (イ)業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
        • (ロ)その他
      • ハ 拘束性の有無
      • ニ 代替性の有無―指揮監督関係の判断を補強する要素―
    • (2)報酬の労務対償性に関する判断基準
  • 2.「労働者性」の判断を補強する要素
    • (1)事業者性の有無
      • イ 機械、器具の負担関係
      • ロ 報酬の額
      • ハ その他
    • (2)専属性の程度
      • イ 他社の業務に従事することが制度上制約されたり、時間的余裕がなく事実上困難である場合
      • ロ 報酬に固定給部分がある、業務の配分等により事実上固定給、その額も生計を維持しうる程度のものである等報酬に生活保障的な要素が強い
    • (3)その他
      • ①採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること
      • ②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること
      • ③労働保険の適用対象としていること
      • ④服務規律を適用していること
      • ⑤退職金制度、福利厚生を適用していること等

また、何のために「個人事業主」か「労働者」かを判断するのか(どの法律に関する話か)によっても違いがあります。

いずれにせよ、個人事業主との契約の形をとる企業に対しては、労働者としての権利を主張する前に、まず労働者にあたることが証明できなければなりません。そしてそれは裁判によって決着するしかない場合もあり、通常は弁護士に相談していただく必要があります。

「あっせん」による話し合い解決を試みることはできますので、そのような場合は【特定】社会保険労務士に相談することもできます。

なお、労災の請求をしたい場合は、労働者性を示すいくつかの証拠とともに労働基準監督署に対して労災を請求することが可能です。労働基準監督署は職権で判断してくれるからです。忙しい方に代わって社会保険労務士が手続きをお手伝いすることも可能です。請求に対して、不支給の決定がなされることもあります。その場合も不服申立てを二段階にわたって行うこともできます。(時間はかなりかかります。)また、裁判で争うこともできます。(裁判を試みる場合は弁護士に相談して下さい。)