徽章羽根社会保険労務士事務所

     HANE The Labor & Social Security Attorney's
青空

この記事は、2022-07-01に更新されたものです。

過重労働について

11月は「過労死等防止啓発月間」です(過労死等防止対策推進法)

1.面接指導

平成31年4月1日に労働安全衛生法が改正され、面接指導義務が強化されています。

なお、この規定は、平成31年4月1日以後の期間のみを定めている時間外・休日労働協定(36協定)が適用されている労働者に対して適用され、平成31年3月31日を含む期間を定めている時間外・休日労働協定(36協定)が適用されている労働者に対しては、その協定に定める期間の初日から1年間は適用されません。

「長時間労働者」に対する面接指導

  • 長時間労働者かどうかは、「休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間」(=「時間外・休日労働時間」と言います。)によって判定します。
  • 時間外・休日労働時間
    =1か月の総労働時間数-(計算期間(1か月)の総暦日数÷7)×40
  • 毎月1回以上、一定の期日を定めて算定しなければなりません。(例)賃金締切日など
  • 1か月当たり80時間」を超えると、労働者本人に対して、速やかに、当該超えた時間(=「時間外・休日労働時間」)に関する情報を通知しなければなりません。
    (計算例)4月に20日間、「1日8時間労働+時間外労働2時間」で労働した場合
     1か月の総労働時間数:(8+2)×20=200時間
     計算期間(1か月)の総暦日数:30日
     時間外・休日労働時間:200-(30÷7)×40=約28.6時間
  • 1か月当たり80時間」(従来は100時間)を超え、疲労の蓄積が認められる労働者の申出により、労働安全衛生法第66条の8に基づく面接指導を行わなければなりません
  • 労働者は、事業者の指定した医師による面接指導に代えて、他の医師による面接指導の結果を提出することもできます。
  • 事業者は、面接指導の結果を記録し、面接指導の結果に基づいて、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければなりません
  • 事業者は、前項の医師の意見を勘案し、その必要があると認める時は、職務内容の変更その他の適切な措置を講じなければなりません
  • 研究開発業務従事者で「1か月当たり100時間」を超えたものに対しては、申出なしに面接指導を行わなければなりません。(経過措置あり。)

2.過重労働の原因

2-1.例1(過重な目標)

過重な目標を与えられる


目標が達成できないことについて追及され、追い込まれる

「できないなら辞めろ!」「給料泥棒!」などの言動に対し、退職や賃金低下を受け入れられる状況に無い。(扶養家族がいるなどの家庭事情や、新卒で社会人経験が少なく退職後の不安が大き過ぎるなど)

勉強ができたからなどの理由で「仕事ができない」という事実が受け入れられない。(それまでの人生では頑張ることでそれなりの成果を上げてきたり、「先輩たちも同じようにしてきた」などの言葉を信じたりで、頑張れば何とかなるだろうと軽く考えてしまう)


「できない間は時間をかけることで補おう」


睡眠時間を削って頑張る


極度の睡眠不足


うつ病を発症して正常な判断ができなくなり自殺/脳・心臓疾患を発症して突然死

2-2.例2(自ら仕事を増やしている)

事業主や上司から指示された仕事は「業務命令」であり、「業務命令」に従う時間は「労働時間」であって「賃金」が発生します。

逆に言うと、それ以外の「仕事(と労働者が勘違いして行うもの)」については、たとえ企業にとって有益なことであっても、「業務命令ではないから、労働時間ではなく、賃金も発生しない」との解釈があります。

例えば、取引先(顧客)から担当者へ直接「△△は○○でなければ...」などと業務指示らしき話が行くことがあります。

この時、窓口担当者が、他に担当者やできる者がいない場合に、「その仕事をする者は、自分しかいない。」と考え、誰にも相談せずに自分でやってしまう場合があります。

この場合、事業主・上司は、「業務指示を出していないから、労働時間ではない」と考えるため、「業務は過重ではない」と考えているかもしれません。

この他、「平成28年版 過労死等防止対策白書」によれば、所定時間外労働が必要になる理由として、「人員が足りないため(仕事量が多いため)」「予定外の仕事が突発的に発生するため」「業務の繁閑が激しいため」を挙げる労働者が多いようです。

3.過重労働の対策

以下は、緊急の場合を考慮して、特別に公開するものです。

過重労働で自殺を考えているような方へのアドバイスです。

【1】辞める

退職する場合、相手の承諾は不要です。

「損害賠償」などと言われても、損害が発生することは通常ありえません。労働者が1人辞めただけで発生するような損害は、労働者が辞めたり病気やけがなどで突然仕事ができなくなったりした場合に備えて予備の人員を確保していなかった企業側に責任があります。労働者がライバル企業に秘密を漏らしたり、会社の資材を壊してしまったりでもしない限り、損害が発生することは通常ありません。何を言われても「弁護士に相談する。」で通し、口頭であっても決して「払います」などと言ってはいけません。後で大変面倒なことになるからです。

法外な金額を言われた場合は、

労働基準法第5条(使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。)違反の可能性があるため、労働基準監督署に電話する」と言ってみましょう。この規定に違反した場合の罰則は、「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」です。

「賃金の全額(または一部)を支払わない」「賃金の支払いが遅れる」と言われた場合は、「労働基準法第24条違反の可能性があるため、労働基準監督署に電話する」と言います。このときの罰則は、「30万円以下の罰金」です。

正式な退職の時期については、
 原則として、退職の意思表示の2週間後(民法627条第1項)、ただし、就業規則で「1か月前」などとされている場合は、合理的な理由無く労働者を不当に長期間拘束するような規定で無い限り、就業規則に従います。詳しくは、最寄りの社会保険労務士や弁護士に相談してみて下さい。

辞めると意思表示してから実際に退職するまでの間はできるだけ休んで下さい。年次有給休暇が無ければ病欠や無断欠勤でもいいでしょう。 自殺を考えなければならないような事態が発生している状況では、会社でさらに突発的な事態が発生した場合に冷静な対処ができない危険性があるからです。もしどうしても会社に出なければならない場合でも、退職日の前日などなるべく最後の方にしましょう。退職届などが必要と言われても、FAXや電子メールなどで代用し、正式なものは郵便でもいいでしょう。万一どうしても出勤しなければならないと思った場合であっても、社会保険労務士や弁護士に相談してから出るかどうか決めるほうがいいでしょう。病気やけがなどで連絡もできずに突然休まなければならない場合もあります。病気などを理由に休めば良いでしょう。 会社が許可すれば彼らに付き添ってもらいましょう。彼らの手配に多少時間がかかってもそうすべきです。いざと言う場合に備えて法律に強い味方がそばにいる方が安心です。企業としても、一度「辞める」と口にした従業員は、もはや企業に対して忠誠心や責任感は期待できませんから、休んでもらった方がありがたいはずです。

万一、企業側の誰かが自宅まで押しかけてきて無理矢理出勤させようとすることがあるかもしれませんが、その場合には、前述の「労働基準法第5条違反」を参考にして下さい。社員寮などで鍵を開けられて無理矢理連れて行かれる恐れがある場合は、ホテルなどに身を隠すことも必要かも知れません。このような場合、法律に疎い家族などのもとに身を寄せても、脅されて企業側の味方にされてしまう恐れもあります。自分の身の安全を確保しなければならないような場合には、まず身の安全、次に法律に詳しい専門家(社会保険労務士や、特に身の危険を感じる場合は弁護士)に相談しましょう。

雇用契約に期間の定めが有る場合(有期雇用契約=原則最長3年、厚生労働大臣が定める高度な専門知識を有する労働者がそれを必要とする業務に就く場合や60才以上の場合は最長5年)は、原則としてその雇用契約期間の終了まで辞めることはできません。

ただし、雇用契約の締結の際に明示された労働条件が守られていない場合は、直ちに辞めることができます(労働基準法第15条第2項)。過重労働で自殺を考えるような場合は、たいてい守られていないものです。素人目にはそう思えない場合でも、専門家の目から見れば守られていないとはっきりわかる場合もあります。自信が無い場合は、社会保険労務士や弁護士に一度相談してみて下さい。

時間外労働が100時間を超えた場合や、事業主や会社の従業員に就業環境を著しく害する言動(パワハラ)をされた場合など、就業の継続が非常に困難となって離職した場合は、雇用保険法の「特定受給資格者」に該当し、自己都合退職ではなく会社都合による解雇同然とみなされ、会社はいろんな助成金が受けられなくなる恐れがあり、労働者は雇用保険の基本手当(失業手当)が直ちに支給されます。

【2】休む

自殺を考えるほどの過重労働を強いられている場合は、一刻も早く、心身を休ませなければなりません。とにかく休んで下さい。スケジュールが詰まってて代わりの人もいないというような場合でも、会社がなんとかするものです。心療内科などを受診して診断書をもらいましょう。

なお、年次有給休暇を取得できない休職期間については原則として無給となってしまいますが、病気やケガが理由で就業できない場合は、1年6ヶ月を限度として、健康保険から「傷病手当金」(労災認定された場合は「休業補償給付」)として、月給の6割~3分の2程度が支給される場合があります。(1年6ヶ月を超えると、各種年金制度から給付が行われる場合があります。)

【3】面接指導を申し出る

時間外・休日労働が月100時間 月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(労働者の疲労蓄積度チェックリスト)労働者の方は、1月以内に「会社に申し出る」ことにより、会社の指定する医師による面接指導を受けられます。(その医師による面接指導を希望しない場合には、他の医師による面接指導を受けてその結果を証明する書面を提出します。)

会社は、面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、1月以内に医師の意見を聴き、その意見を勘案して必要と認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業(22:00~5:00の業務)の回数の減少等の措置(就業上の措置)を講じなければなりません。

なお、会社が持っている時間外・休日労働の時間数のデータが正確でないなどによって面接指導や就業上の措置が受けられないときは、労働基準監督署に相談してみましょう。

また、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者についても、「会社に申し出る」ことにより、面接指導等を実施するよう努めることとされています。面接指導等を実施した場合、会社は上記に準じる措置を講じるよう努めることとされています。

面接指導の対象にならない労働者であって、健康への配慮が必要なものについては、必要な措置を講じるよう努めることとされています。

さらに、ストレスチェックにおいて「面接指導が必要」とされた労働者の場合も、1月以内に「会社に申し出る」ことにより、1月以内に医師による面接指導が受けられます。労働者が面接指導を受けた場合、会社は1月以内に面接指導を実施した医師から就業上の措置に関する意見を聴き、その意見を勘案して必要と認めるときは、労働者の就業上の措置を講じなければなりません。

【4】自発的健康診断の結果を提出する

過去6ヶ月平均して月4回以上深夜業(22:00~5:00の業務)を行っている常勤労働者の方は、「自発的健康診断」(労働安全衛生法第66条の2)を受診し、「異常の所見がある」と診断された場合には、3月以内にその結果を書面で会社に提出することによって、会社は労働者の健康を保持するために必要な措置について、3月以内に医師等の意見を聴き、その意見を勘案して必要と認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業(22:00~5:00の業務)の回数の減少等の措置を講じなければなりません。

【5】(いや)な人になる

過重労働を強いられる職場では、慢性的な人手不足になっていると考えられます。そのような職場では、仕事の押し付け合いが横行している可能性があります。例えば社内宴会の幹事など、業績に無関係の用事は誰にとっても余計な負担です。笑顔一つで快く引き受ける「いい人」でいることは、そのような職場では自殺行為です。「(いや)な人になる」ことも選択肢の一つです。

4.その他

(一例です)

①与えられる目標が高過ぎるから達成できない

目標の設定の仕方に問題がある(対前年比+○○%など)
(「○○だから仕方ない」「みんなこれでやっている」などの言い訳を受け入れてしまう)

※高過ぎる目標が設定されてしまう背景

  • 株主の過大な配当要求(高い利益目標)
  • 正規社員の高齢化による人件費総額の高止まり(高い労務費に見合う高い利益率目標)
  • 人口(=需要)増加に支えられた高度成長・バブル期における「頑張れば必ず結果がついてくる」という誤った成功体験
  • 妻が家事・育児・介護をすべてしてくれる人にとっての「このくらいできて当然」という幻想
  • 成果主義の行き過ぎによる仕事の押しつけ・成果の奪い合い(できる人ほど仕事を押しつけられ、成果を奪われる)
  • 高齢化による能率の低下(若い人ほど仕事を押しつけられる)

高過ぎる目標が押しつけられる会社は、それが達成されなければならないような危機的状況やその前段階にあることが多く、構造的な問題を抱えていることが多いでしょう。そのような場合、個人がいくら頑張っても状況が好転することは考えにくく、「逃げるが勝ち」ということも考えるべきです。

②適切に教わっていないから能力が発揮できない

口で言うだけで実際にやって見せてくれないので、説明不足の部分を想像で補って考えながら仕事をしなければならず、なかなかうまくできるようにならない(勉強ができたのは具体例を何度も見て、類題を何度も練習したから。仕事ではそこまでさせてくれないから、何年もかけて何度もいろんな事例を経験してだんだんできるようになっていく)

教育訓練が適切に行われない会社は、そのような場合でも責任を問われない会社ということであり、将来的にも新人が育ちにくく、やがて業績に行き詰まるものです。せっかく入った会社であっても、将来をしっかり考えて行動を起こすべきです。

③時間が足りないから仕事ができない

会社の先輩・同僚・上司などが、仕事のための時間をどんどん奪っていってしまうことがあり、時には「指導」という名目で長時間の説教(あるいは仕事の妨害・いじめ・パワハラ)が行われることもあります。

仕事を完成するために十分な時間(あるいは人員)を与えてくれない会社に居続けても、一生そのようなスタイルでの仕事を強要されるだけです。何のために仕事をするのか、仕事をすることによってどのような未来を実現しようとしているのか、今の会社にいてそれが実現できるのか、よく考えるべきです。

④仕事の根本を勘違いしている

企業(会社や独立した個人の自営業者)にとっての仕事とは、「個々の仕事の完成」であり、彼らは、どんな仕事をどんな条件(期日、報酬等)で引き受けるかを自分の意思で決定し、必要に応じて他人(従業員)を雇い、その労働力を「使用」することによって、それぞれの仕事の完成を目指します。

それに対して、労働者にとっての仕事(雇用契約における、労働者の義務)とは、「労働力を提供すること」であって、「個々の仕事の完成」ではありません。すなわち、「健康な心身で、決められた就業時間に(三六協定の限度時間の範囲内で)、決められた就業場所で、決められた内容の職務に関して、使用者の具体的な指揮命令が与えられれば、それに従うこと」です。これが労働者にとっての仕事です。

従って、労働者は「健全な労働力を提供」しさえすれば、それで義務を果たしたことになり、賃金請求権が発生します。たとえ何もしていなかったとしても、就業時間に、就業場所で、健康な心身で、使用者の具体的な指揮命令があれば、いつでもそれに従える状態でいたのであれば、(労働者にとっての)「仕事をした」ことになります

もちろん、労働者が労働力を提供するに際して、企業が目指す「それぞれの仕事の完成」を念頭に置くのは悪いことではありませんし、むしろ、それ(に近い状態)を期待されているのが実際のところでしょう。しかしながら、個々の仕事の完成を労働者が引き受ける、というのは適切ではありません。その理由は、労働者は、次から次へと発生する個々の作業命令に対する「諾否の自由」(個々の命令に従うかどうかを決定する自由)や、人員配置権(人事権)、他の従業員に対する指揮命令権などを持っていないため、仕事の完成を引き受けた当初の前提が簡単に崩されてしまうからです。

例えば、自分の労働時間(8時間+残業2時間)を使うつもりで10時間の仕事を引き受けたとしましょう。そこへ、追加で5時間の作業を命じられたらどうなるでしょう。その5時間の作業は断ることができません。なぜなら、「使用者の命令」だからです。労働者は、使用者の命令に従う義務があります。すると、1日は24時間ですから、8時間+残業2時間+5時間+1時間(8時間の仕事の内に与えられる休憩時間)を差し引くと、残り8時間しかありません。この8時間で、帰宅・通勤、食事、入浴、身支度(着替え、化粧など)、睡眠を行わなければならなくなります。当然睡眠不足になります。掃除・洗濯や家族・友人との会話などもする時間はありません。足りない分は休憩時間や休日に回しますが、それらが使えなくなると破綻します。

なぜこうなったか考えると、「個々の仕事の完成」を労働者が引き受けること自体に無理があるのです。「個々の仕事の完成」は、特定の期日(締切。労働者の追加・補充・教育に要する期間も含む)、報酬(材料費、人件費、利益を含む)などを条件に、一件一件、その時々の状況(材料費が高騰しそうかどうか、十分な労働力が確保できそうかどうかなど)に応じて、別々に契約するかどうかを決定すべきものなのです。それができるのは、自分の意思で自由に判断・決定できる企業(会社や個人事業主)または十分な権限を与えられた管理職だけです。

それを、自分の労働力しか頼れない労働者が、その自分の労働力だけを使って仕事の完成を引き受ける一方で、その肝心の自分の労働力を他人(企業)が好きに使って良いという契約(雇用契約)を結んでいることがおかしいのです。そんなことをしていたら破綻するのが当然ですし、自分にもしものことがあれば、仕事の完成もできなくなります。むしろ、無責任と言えるかも知れません。

労働者は、仕事の完成を引き受けることはできません。労働者の仕事は、自身の持つ最大限の労働力の提供を超えることはできないのです。

なお、極度の睡眠不足に陥って異常な言動が認められる場合は、すでにうつ病を発症して正常な判断ができない恐れが強いため、本人に考えさせて判断させることは極めて危険です。周囲の誰かが気づいたら強制的に休ませるようにしてください。

5.補足

5-1.過重労働に対する政府の主な取り組み

平成12年8月「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を策定
平成13年4月「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定
平成13年12月「職場における自殺の予防と対応」(労働者の自殺予防マニュアル)を取りまとめ
平成13年12月恒常的な長時間労働等による長期間の過重業務を新たに労災認定の要件として追加
平成14年2月「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(旧総合対策)を策定
平成16年10月「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成24年7月一部改定)を策定
平成18年3月「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定
平成18年3月「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置)を策定
平成18年4月「長時間労働者に対する面接指導制度」を創設(ただし、常時50人未満の労働者を使用する事業場においては平成20年4月から)
平成26年11月過労死等防止対策推進法が施行
平成27年12月「ストレスチェック制度」を創設
平成30年6月「働き方改革」法案が成立(平成31年4月より順次施行)

5-2.「残業80時間は過労死ライン」でしょうか?

人によると思います。

残業80時間というのは、月20日勤務するとして、平均して1日4時間の残業にあたります。9時~18時まで勤務すると、1日8時間労働+休憩1時間ですが、4時間残業すると22時に職場を出ることになります。

ここで通勤時間が問題になります。

通勤時間が30分ほどだと、帰宅は22:30、翌朝8:30に家を出るとして、10時間のインターバルがあり、7-8時間の睡眠は確保できそうです。ところが通勤時間が2時間になると、帰宅は24時、翌朝7時に家を出ると、インターバルは7時間になり、6時間の睡眠は難しそうです。これが続くと慢性的な寝不足に陥るでしょう。

また、労働者によっては、家事・育児・介護・PTA・自治会活動などの負担も違ってきます。家が職場に近いからといって、油断はできません。

一方で、少しでも長く働いてお金を稼ぎたい、あるいは、仕事が楽しくて仕方ない、という労働者も存在します。その場合、「80時間しか残業できないのは困る」という方も出てくるかもしれません。休日にどれくらい回復できるかも人によって異なりそうです。人が何時間残業すれば過労死するかなどわかりませんし、実験するわけにもいきません。

5-3.「100時間の残業で過労自殺は情けない」のでしょうか?

残業した時間ではなく、自由に使うことができた時間(極端な話、「睡眠時間」)がどれくらいとれたかが重要な問題です。最近は、家事・育児・介護・PTA・自治会活動なども男女平等の観点から共同で行わなければならない風潮が強くなっています。仕事と家庭の両立が可能な状態だったかどうかが重要です。

また、事業主が自分の意思で猛烈に働くという場合は、①自分の意思でどの仕事をし、また、どの仕事をしないかを自由に決めることができる。②仕事が完成した後、大きな報酬が期待できる。③家族のサポートが受けられる可能性がある。④従業員に指示して代わりに仕事させることができる。のに対し、

従業員が会社・上司に強制されて残業する場合は、①自分がしたくない仕事でも、命じられれば原則として何でもしなければならない。②仕事が完成しても、大した報酬は期待できない。③家族のサポートは受けられない。④他人に仕事をさせることはできない。というところから、

事業主が自発的に行う長時間の仕事とは比べものにならないほど大きな精神的負担になることが予想されます。まして、残業時間がカットされて一銭にもならないことが予想される場合はなおさらです。

5-4.消灯すれば残業時間が減るのでしょうか?

消灯しても、全体の仕事量を減らさない限り、どこか別のところで残業が行われるだけです。労働基準法上、事業主は従業員の労働時間を正確に把握しなければなりませんが、かえって把握しにくくなります。また、作業の効率も悪くなることが予想され、一層労働時間が長引くことが予想されます。残業時間を減らすには、上司が部下の労働時間をきちんと管理して仕事量を調節すること、そして、上司が労働法令の規定をしっかり学んで理解することが、労働災害を発生させない(貴重な労働力を失わない)ために重要です。

5-5.過重労働を減らすための政策提言

この項目は、平成29年以前に書かれたものです。

まず初めに、「過重労働」を定義しておきたいと思います。私が考える「過重労働」とは、「望まない長時間労働」または、「ハラスメントが常在するなどストレスフルな職場における長時間労働」です。自ら進んで行う長時間労働も、ごく一部ですが、全くないわけではありません。それでは、「過重労働」を減らすための提言です。

「時間外・休日労働が月100時間を超えた労働者は、そのときから一年間、いつでも退職できる」といった規定を労働基準法に作ればいいかもしれません。自分の意思で長時間労働をしている労働者は退職せず、自分の意思に反して過重労働を強いられている労働者の保護に役立つと思います。

「使用者は、時間外・休日労働が月100時間を超えた労働者に対し、翌月中に連続○日間(15日間など)の臨時有給休暇を取得させなければならない」という規定もいいかもしれません。労働者の心身の疲労を回復し、あるいは長時間労働の抑制につながると思います。

「1日○時間(3時間など)を超える時間外労働や休日労働については、その都度、労働者個人の承諾を必要とする」という規定も考えられます。現状、就業規則と三六協定によって、個々の労働者の承諾無しで(繁忙期には)いくらでも残業命令ができることになっていますが、こうした規定を新設すれば労働者が望まない長時間労働を削減できるのではないかと思います。

また、時間外労働の賃金については、現行、通常の25%増し、月60時間を超えた部分は(中小企業を除いて)50%増しの賃金となりますが、80時間を超えたら75%増し、100時間を超えたら100%増し、120時間を超えたら…などと時間外賃金の累進割増率を適用すれば、長時間労働を抑制することができると思います。

さらに、労働基準監督官の増員が必要と思います。平成26年度の労働基準監督官数は約4,000人(平成26年労働基準監督年報)とのことです。単純比較はできませんが、平成28年度の国税庁の職員数(定員)は約56,000人(国税庁レポート2016)です。

なお、労働時間の計上を偽って労働者にサービス残業をさせた使用者には、現状、賃金未払いによる30万円以下の罰金止まり(三六協定の限度時間を超えて残業させた場合は、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)と考えられますが、サービス残業を好んで行う労働者がいるはずはないため、強制労働に準じた厳しい罰則を適用すれば、労働時間の管理が厳密になり、サービス残業が減って労働者のストレスも低減し、労働者の健康管理にも役立つのではないかと思います。