徽章羽根社会保険労務士事務所

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青空

この記事は、2019-11-13に更新されたものです。

有給休暇

【法改正】平成31年4月1日以降、労働基準法による年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、基準日(付与日)から1年以内に、5日以上取得させることが義務付けられました。→ 時季指定義務

年次有給休暇管理簿のひな形はこちら

1.有給休暇の種類

有給休暇には、「年次有給休暇」「半日単位の年次有給休暇」「時間単位年休」「代替休暇」があります。

A.「年次有給休暇」は、労働基準法39条で定められており、要件に該当すれば、管理監督者を含めたすべての「労働者」に与えられます。労働基準法は、労働基準の最低基準なので、「うちは有給休暇はありません。」などとすることはできません。

B.「半日単位の年次有給休暇」は、法律上の義務ではありませんが、従来から通達によって、「年次有給休暇の取得促進の観点から、労働者がその取得を希望して時季を指定し、これに使用者が同意した場合であって、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて問題がないものとして取り扱うこと」とされているものです。

C.「時間単位年休」は、年次有給休暇を時間単位で部分的に取得するものです。年5日分まで取得することができます。「時間単位年休」の取得には、労使協定が必要です。

年次有給休暇管理簿(時間単位対応版)はこちら

D.「代替休暇」は、労働基準法37条3項で定められており、大企業において、現在(中小企業は令和5年4月1日から)、1か月間に60時間を超えた時間外労働に対して、通常の割増賃金25%を超える50%以上の割増賃金を支払わなければなりませんが、その25%を超えて上乗せされた部分については、労働者の希望に応じて「代替休暇」の取得に替えることができる、というものです。「代替休暇」の取得には、労使協定が必要です。

ここでいう「代替休暇」は、休日に労働した代わりに取得するいわゆる「代休」とは異なります。

2.年次有給休暇

2-1.要件

1年目については、

雇入れの日から6か月間継続勤務
②その6か月間全労働日の8割以上出勤

した労働者に対して与えられます。

2年目以降については、

雇入れの日から〇年6か月間継続勤務
②直前の1年間全労働日の8割以上出勤

した労働者に対して与えられます。

<注>

①「6か月間」継続勤務について、
毎年「1年6か月」継続勤務、「2年6か月」継続勤務、…と増えていきます。 途中で社員区分が変わっても、実質的に勤務が継続していれば、ここでいう継続勤務の期間はリセットされません。例えば、定年退職後に再雇用されたり、パート社員から正社員に転換した場合、形式的には一旦退職しているようですが、ここでいう継続勤務の年数は、それまでの年数に加算していきます。

②「出勤率」(8割以上)の計算について、

出勤率 =   出勤日数
全労働日の日数
2-1-1. 全労働日

「全労働日」とは、「労働契約上労働義務のある日」のことで、具体的には次のように計算します。

全労働日雇入れの日から6か月間の総暦日数
 
  • 所定の休日(休日労働日も含む)
  • 不可抗力による休業日
  • 使用者の責による休業日
  • 正当な争議行為により労務提供が全く無かった日
  • 公民権の行使・公の職務執行による休業日
  • 代替休暇を取得した日

「所定の休日」とは、文字通り「所定」の「休日」であり、事業所が就業規則などで定めた「休日」を指します。例えば、「土日祝日、盆(8月〇日~〇日)および年末年始(12月〇日~1月〇日)」などです。

この「休日」には、「休業」や「休暇」は含みません。これらの用語を混同して用いるとトラブルの原因になりますので、厳密に区別して用いなければなりません。就業規則にも、厳密に区別して記載しなければなりません。用語を完全に区別できないような業者には、決して就業規則を作らせてはなりません。

なお、就業規則の作成を有料で請け負うことが法律で認められているのは、社会保険労務士と弁護士だけです。

2-1-2. 出勤日数

「出勤日数」は、次のように計算します。

出勤日数実際に出勤した日数(休日労働日を除く)
  • 業務上の負傷または疾病により療養のために休業した期間
  • 育児・介護休業法が定める育児・介護休業の期間
  • 労働基準法65条が定める産前・産後休業の期間
  • 労働基準法39条が定める年次有給休暇を取得した日数
  • 解雇無効判決が確定した場合などの解雇日から復職日までの不就労日

「○○法が定める○○休業」などとしているのは、ここでは「労働基準法が定める最低基準」を紹介しているからです。

企業によっては、労働者の福祉を厚くする観点から(もしかすると就業規則の作成ミスも考えられますが)、法律が義務付ける以上の休業・休暇や出勤率の計算方法を「就業規則」に定めている場合があります。各企業が独自に労働条件の上乗せをすることは何ら問題ありませんので、個別企業の計算方法が、労働基準法の基準よりも労働者にとって有利な場合については各企業の「就業規則」に定められている通りとなります。

なお、育児・介護休業法が定める「育児・介護休暇」や、「病気休暇」「生理休暇」などは、出勤日数に加えることはしません。特に、「育児・介護休暇」は「育児・介護休業」とよく似ているので注意してください。もちろん、この「労働基準法が義務付ける最低基準」よりも労働者にとって有利な基準を「就業規則」に定めている場合はそちらに従います。

また、育児・介護休業法には、「育児・介護休業」の他、「育児・介護休業に関する制度に準ずる措置」などと、よく似ているが異なる用語も用いられており、これらは厳密に区別しないとトラブルの原因となりますので注意が必要です。

なお、「代替休暇」の取得日数については、「年次有給休暇」の扱いとは異なり、出勤日数には加えず、全労働日から差し引くことになっています。

2-2.付与日数

年次有給休暇の付与日数は、「継続勤務の年数」と、「1週間の所定労働時間」などによって決まります。

①原則
継続勤務の年数6か月1年6月2年6月3年6月4年6月5年6月6年6月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

有給休暇は、「労働義務がある【労働日】」のうち「労働義務が(他の休暇などによって)免除されていない日」にしか取得することができません。

例えば、「所定の休日」や、「育児・介護休業」の期間については、有給休暇を取得することができません。

②パート労働者

1週間の所定労働時間が30時間未満かつ
1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は、1年間で216日以下)
のパート労働者については、次の表の通りとなります。

所定労働日数継続勤務の年数
(年)6か月1年6月2年6月3年6月4年6月5年6月6年6月以上
4日169~216日7日8日9日10日12日13日15日
3日121~168日5日6日6日8日9日10日11日
2日73~120日3日4日4日5日6日6日7日
1日48~72日1日2日2日2日3日3日3日

2-3.時季の指定

有給休暇は、労働者の請求する時季に与えなければなりません(時季指定権)。

ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更することができます(時季変更権)。この「時季変更権」が認められるのは、年度末の業務繁忙期であったり、同じ時季に請求が集中したような場合などに限られ、慢性的に多忙だから、といった理由で有給休暇を拒否することはできません。(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)

使用者による時季指定義務(平成31年4月新設)→ 時季指定義務

2-4.計画的付与

年5日を超える部分については、労使協定で定めることによって、時季指定権・時季変更権にかかわらず、年次有給休暇を与えることができます。これを「計画的付与」と言います。ただし、「時間単位年休」を「計画的付与」することはできません。

2-5.年次有給休暇中の賃金

年次有給休暇中の賃金は、就業規則の定めにより、「平均賃金」「所定労働時間労働した場合の通常の賃金」または労使協定で定めた場合には健康保険法の「標準報酬日額」を支払わなければなりません。時間単位年休の場合は、それぞれの金額をその日の所定労働時間数で割った金額×時間数となります。

「平均賃金」とは、原則として、算定事由が発生した日の前3か月間に労働者に支払った賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額です。ただし、労働基準法12条に、最低金額の規定があります。

「通常の賃金」とは、例えば「時給×時間数」などによって計算される金額です。

2-6.基準日と斉一的取扱い

労働基準法では、雇入れの日から〇年6か月後の年次有給休暇の付与日を「基準日」といい、2年目からは、その「基準日」の前日までの1年間の出勤率によって、年次有給休暇が付与されるかどうかが決まります。

ところが、中途入社等により、労働者の入社日がバラバラの場合は「基準日」が労働者ごとに異なることになり、管理が煩雑となります。

そのような場合、全労働者に一律の「基準日」を定める、いわゆる「斉一的取扱い」というものを行うことができます。

「斉一的取扱い」を行う場合は、必ず法定の「基準日」以前の日に繰り上げて年次有給休暇を付与します。短縮された期間の労働日についてはすべて出勤したものとして取り扱います。

例えば、4月1日(入社日)に5日与え、6か月後の10月1日に残りの5日を与えます。

次年度以降の付与日は、前年の付与日と同じ日か、それ以前に繰り上げます(前年より遅らせてはいけません)。

例えば、前年4月1日に5日、10月1日に5日付与した場合、2年目の4月1日には11日まとめて付与します。

2-7.分割付与

年次有給休暇の一部を分割して付与することもできます(「分割付与」)。本来、年次有給休暇は「基準日」に付与されますが、「分割付与」は、「本来の基準日が到来する前に一部または全部を付与するもの」です。

「分割付与」を行う場合、法定の「基準日」までには全日数を付与しなければなりません。(分割付与は、必ず前倒しで繰り上げて付与します)。この場合、前倒しで付与する分については、「斉一的取扱い」と同様に、短縮された期間の労働日についてはすべて出勤したものとして出勤率を計算します。

なお、法定の年次有給休暇の一部を前倒しで付与した場合には、翌年度以降についても、(通常、すべての日数について)同じかそれ以上の期間、繰り上げなければなりません。 (【厚生労働省】年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 P.10「ケース3」(補足)

2-8.その他

2-9.時季指定義務

平成31年4月1日から、(中小企業を含む)すべての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、基準日(付与日)から1年以内に、5日以上取得させることが義務付けられました。労働者が取得時季を指定しない場合には、使用者が労働者に代わって時季指定を行う義務があります。時季指定に当たっては、各労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めます。

なお、この規定は、平成31年4月1日以後に到来する最初の基準日以降について、適用されます。そのため、平成31年3月31日以前に到来した基準日のものについては、時季指定義務はありません。

基準日以降に年次有給休暇を取得した労働者に対しては、その日数分(半日単位で取得した日数は「0.5日分」としますが、時間単位で取得した日数分は、含みません。)は差し引きます。

例えば、5日以上取得済みの労働者に対しては、使用者による時季指定は不要です。

取得日数が5日に満たない場合は、残りの日数を取得させます。この場合、労働者が半日単位の取得を希望したときは半日単位(0.5日分)で時季指定できますが、時間単位で時季指定することはできません。

なお、基準日が到来する前に前倒しで付与・取得された日数分は、時季指定義務のある5日から差し引きます。例えば、4月1日に前倒しで5日付与され、それがすべて消化された後、10月1日に残りの5日が付与された場合は、すでに5日取得されたとして、10月1日からの1年間に時季指定する義務は発生しません。(労働局への質問の回答)

分割付与」により、法定の基準日以前に年次有給休暇を10日以上付与する場合には、付与日数が合計10日となった日(この日を「第一基準日」と言うことがあります。)から1年以内に5日取得させなければなりません。

斉一的取扱い」によって「基準日」を繰り上げる場合には、次の基準日(この日を「第二基準日」と言うことがあります。)が1年以内にやって来るため、年5日の時季指定期間(基準日から1年間)に重複が生じ、管理が煩雑になることがあります。そのような場合には、前の期の初めから後の期の終わりまでの間に、期間の長さに比例した日数を取得させることができます。例えば、1年6か月の間に、7.5日以上を取得させます。

なお、年次有給休暇の時季指定の方法は、就業規則に記載が必要です。また、年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合、1人当たり30万円以下の罰金が科せられます。

最も手っ取り早い解決策は、「斉一的取扱い」を行って「基準日」を統一した上で、労使協定を締結して、「年5日の計画的付与」を行うことです。

なお、この規定に関するものを含め、休暇に関する規定を新設・変更する場合は、法定の手続き(「就業規則」に記載して届出・周知等)が必要です。

「時季指定義務」に関して、詳しい解説が【厚生労働省】年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 P.5「2.年5日の年次有給休暇の確実な取得(2019年4月~)」にあります。

2-10.年次有給休暇管理簿

平成31年4月1日から、(中小企業を含む)すべての企業において、労働者ごとに、「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保存することが義務付けられました。

→ 年次有給休暇管理簿のひな形はこちら

2-10-1. 管理簿が必要な場合

年次有給休暇管理簿は、すべての労働者について作成する必要はなく、下記の場合に作成義務が発生します。

従って、有給休暇が1日も与えられない労働者については作成する必要はありませんが、1日でも与えられる労働者については、年5日の時季指定義務が発生しなくても、「使用者の「時季変更権」が行使される可能性は存在するため、作成しなければならない場合があることに注意が必要です。

そのため、年10日以上付与される労働者については、作成しておくことが推奨されます。さらに、年10日未満の場合であっても、年次有給休暇の付与・取得を管理する必要があることから、何らかの管理簿を作成しておくことは必要になるでしょう。

なお、必要なときにいつでも出力できる仕組みであれば、コンピュータシステム上で管理してもかまわないとされています。(【厚生労働省】年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 P.6「Point 5」

2-10-2. 管理簿の法定要件

年次有給休暇管理簿に盛り込むべき必要事項は、次の通りです。労働者ごとに明らかにする必要があります。(労働基準法施行規則第24条の7)

  • 基準日
  • 取得日数
  • 時季(取得日)
  • その他年次有給休暇の付与・取得の状況を明らかにするための事項(労働局への質問の回答)

※ なお、「取得日数」については、以下を記載することとされています。

  • 通常は「基準日から1年以内の取得日数」
  • 1年以内に基準日が2つ存在する場合には「1つ目の基準日から2つ目の基準日の1年後までの期間における取得日数」
  • 半日単位で取得した場合は「回数」も
  • 時間単位で取得した場合は「時間数」も

【厚生労働省】年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 P.7「Point 5」

2-10-3. ひな形

当事務所で作成したひな形です。公式のものは存在しません(平成31年2月1日現在)。

なお、ネット上には、「年次有給休暇管理簿」としての法定の要件を満たさないものがあるので注意が必要です。

ひな形の解説

年次有給休暇(以下、「年休」とします。)には、「基準日から2年間」の時効(民法改正に合わせて「5年間」になるかもしれません。)が適用されます。

そのため、古い基準日に付与された年休から順に消化(取得)していくことになりますが、どの基準日の年休が何日ずつ残っているかの把握・管理が、労働者に年休を取得させる上で、まず初めに必要になります。

そのため、この管理簿では、「基準日ごとの年休の『入出残』」がわかりやすいものとなるようにしました。

※ 年次有給休暇管理簿は、「労働者名簿」や「賃金台帳」に必要事項を盛り込んだものでもかまわないとされていますが、ややこしくなるので、単独のものを作成する方が良いのではないでしょうか。

2-11.年休取得計画表

各部署内で、人員配置を計画する上で、誰がいつ年休を取得するかは重要な管理項目です。厚生労働省のサイトでは、「個人別・グループ別(月間用・年間用)」の「年休取得計画表」のひな形が掲載された有給休暇ハンドブック2(PDFファイル)が配布されています。